「帰るぞ。」


腕を引かれ半ば引きずられるようにして歩く。


「えと、なんでここに?」


かのこが退社する時はまだ仕事をしていたはず。


「米澤が教えてくれたんだ、かのこが男に絡まれてる、って。」


米澤さん。


大輔とかのこの従兄弟。

とはいえ10歳以上も年上の頼れる兄貴的存在だ。


立場は如月のが上だが、知識や経験が豊富な人。

助けてくれるなんて…お礼言わなきゃ。


「それより、なんでこんなことになったのか、詳しく話してもらおうか。」



握った手に力が入るのが分かって、少しだけ…いやかなり、怖くなった。


自分が安易に考えていたのが原因なのだけど…。


「如月さんっ」

「なんだ。」


振り向きもしない、背中しか見えない。


いや、でも。

「怒ってるんですか、あたしのこと!」


「いや。」


聞いているのかいないのか。

それすら分からない状態で歩く。


「あの!」


手を振り解こうとした時だった。

路面の凹凸にヒールが引っかかり、かのこは前のめりに倒れ込む。


「きゃ」

「かのこ!」



ぐにゃりと曲がった足が悲鳴をあげる。


それを助けようと無理な体勢でかのこを支えた如月。


ガチンと嫌な音がした…気がした。


「…っ!」


転ばずに済んだかのこを支えた如月が何故か痛そうに顔を歪めた。


「…如月さん…?」

手首を押さえる如月の手。

じんわりと滲む赤…。


「手!怪我してる…‼︎」


何故⁈


その異変に気付いたのは如月が先だった。

「何処いった⁉︎」


手の怪我なんてどうでもいいとばかりに這いつくばって何かを探していた。