変わらない毎日を過ごしていた。



少なくとも今、この瞬間までは。


会社のあるビルを出た所に、森下が立っていた。

かのこを見つけるとニヤリと笑い近づく。


「返事ないからさぁ、直撃。」


しまった、と思った。
こんなことなら如月に話せばよかった。


手を掴まれ逃げられない。


「そんな怯えなくても取って食いやしないよ。ちょっと食事でも、って思ってるだけじゃん。」

「嫌だから返事しなかったの、わからない?」


強気なかのこが顔を出す。

掴まれた手首、そこからジワジワと不快な感情が上がってくる。


「相変わらずお嬢様気質だよな、そこがいいんだけど。…ん?」


かのこの指に光る証に気付く。


「この前してた?」
「してた。気付かなかったのそっちでしょ。離して。」


嫌だ嫌だ嫌だ。


なんか寒気がする。


嫌な予感、警報が頭の中で鳴る。



「かの、どうした。」



いきなり声がして、嫌な予感が消え安堵する。



「き…泰斗、あのね」

近寄るなりかのこの手を引いて腕の中に収めてしまう、如月。

「うちの嫁が何か?」

「⁈」


明らかに森下の顔色が変わる。

「結婚してたのか。」


「予定です、ま、一緒に住んでるから嫁みたいなもんだし。な、かのこ。」


笑いもせず睨みつけるように言う如月。
怒らせてしまった…かも。


「なんだ、フリーかと思ったから声かけたのに。じゃー、ま、そういうことなんで退散しますわ。」



ホッとした反面、この後が怖い…。



去って行く森下を眺めながら如月が何か呟いた。