「かのこ。」


いつもと変わらない、あたしを呼ぶ声。


「俺の彼女になってくれないか。

…っていうか、なれ。いいよな。」

「はい⁉︎」


指輪返せって…じゃあなんでそんなこと言うのよ!


落ち込んだ….ショック受けたあたし、馬鹿みたいじゃない!


「なんなのよ、さっきからわけわかんない!」



顔から火がでそう。


勘違い?


恥ずかしいったらありゃしない!


「いきなり嫁は嫌だっていうから、やり直してるんじゃねーか。」


ニヤリ、と笑う如月にしてやられた感満載だ。


「ここな、オヤジがおふくろにプロポーズした場所なんだってさ。」


そういうと取り出した白いベルベットケース。


中身は知ってる。


なぜかかのこの指にぴったりな…プラチナとダイヤの可愛い指輪。


はめるのに躊躇うほどの…指輪。


「別にあやかるつもりはないけど…ちゃんとやり直そうと思ったんだよ。」


そっと触れた手が、冷たいそのリングをゆっくりとはめていく。



「行き当たりバッタリで婚約者に仕立てた訳じゃない。

…勢いでキスしたのは謝る。



だけど、ずっとかのこだけが好きだった。

俺をちゃんと男として見て欲しいんだ。」



真剣な顔。


左手にはめられた指輪は、いつの間にか体温を吸収して温かく存在する。



ホントはこうやってちゃんとして欲しかった…のかな。


「まだ、好きかどうかわかりません。」

「知ってる。」

「嫌だって言うかもしれません。」

「嫌とは言わせない。自信がある。」


ポンポンと言い合える、そんな関係でありたいと、思う。

「かのこ。俺だけを見てろよ。他のやつを見るな。」


照れ臭そうなそんな笑顔。


ずるい。


反則だわ。


「俺様発言ね。」


嫌いじゃないけど。

「俺は俺だからな、変えられない。さて、帰るか。」



ドラマみたいに”上に部屋をとってあるんだ”なんて言わないところが如月らしい。


フワフワした気持ちはなんなんだろう。

差し出された手を離さないように強く握る。



でも。


気付いた。



あたし好きなんだわ、この俺様を。