そういえば夕里には初対面でも吠えなかったんだよね。



どっちかというと男の人に吠えそうなのに、ジュリエットは。



紗奈にはリビングのソファに座ってもらって、私はお茶を用意する。



ソファのテーブルには私の追試勉強の道具が置いてあって、紗奈にも追試のことをからかわれた。



紗奈には麦茶の入ったコップを置いて、私はミルクティーの入ったコップを持って紗奈の隣に座った。



紗奈は一口麦茶を口に入れて、コップをテーブルに置いた。



「…あたしね、ちゃんと母親と話をしたの」



紗奈の母親。
紗奈に暴言ばかりを言う、お金にしか興味のない人。



ちゃんと向き合ったんだ、自分の母親と。



紗奈はソファに背中を預けて、天井を見上げた。



「でも無駄だった。
母親はあたしに『アタシはあんたのこと自分の子供だなんて思ってないから』なんて言われた。

こっちが何回も話そうとしても変わらなかった」



予想してた言葉通りで笑っちゃったよ。
紗奈は自嘲の笑みを浮かべてた。



また前の紗奈に戻ってしまいそうだったから、そっと紗奈の手を握る。



紗奈は目を丸くしたけど、すぐに私の手を握り返してくれた。