「…確かに過去の傷と向き合うのは大切なことだ。
でも1人でなんて無理だ。とても大き過ぎる。

抱き締めるには相手がいないと出来ないように、大きな傷を抱き締めるには誰かの助けが必要なんだ」



先輩は私から少し離れて、真っ直ぐに私を見つめる。



真剣なその眼差しに釘付けになる。



先輩はふっと笑って、私の額に自分の額をくっつけた。



「1人で背負おうとするな。綾女には俺がいる。

俺が一緒にその傷、抱き締めてやる。
俺は綾女の傷の苦しみを知ることは出来ないけど、傷を軽くすることは出来る。

だから共に歩こう、綾女。
俺がどんな時でも傍にいて、綾女の苦しみ、悲しみを一緒に受け止めてやる」



ニコッと笑顔を見せる、先輩。



その笑顔でどれだけ多くの不安が抜けたんだろう。



体の負担が軽くなった気がした。



不思議。
先輩が傍にいるだけで、不安が和らいでいく。



一体私にどんな力、使ってるんですか?