イスから立ち上がる。
あ、そうだ。
髪をセットしてくれたからお礼を言わない、…と…
振り返った瞬間に、コツンと何かにぶつかってしまう。
それが先輩の胸元だったと気付くのに、そう時間はかからなかった。
先輩は浴衣を着てるから直に硬い胸板が額にあたる。
「…せ、んぱい……?」
びっくりして声が上手く出せない。
先輩の手が後頭部と背中に回ってる。
後頭部に回ってた手が頬へと降りてくる。
「…李。あと一つだけ、忘れないで……」
「…え?」
先輩は私の耳元に唇を寄せて囁く。
聞いた瞬間、驚いた。
でもやがて驚きは笑顔に変わる。
だって先輩の言葉が嬉しくて、優しくて、何より温かかったから。
「…はい、忘れません」
笑顔でそう答えて、私は歩き出した。
先輩が囁いたあの言葉は私の力になった。
行ってこい。
そう言って私の背中を押してくれたみたい。
ありがとう、先輩。
あなたの言葉で私は一歩、踏み出すよ。
次第に足が速くなり、私は慣れない下駄で走り出した。



