「あ…うん、そう。あれは、私の父さん」

自宅の居間に置かれた食器棚の上に、件(くだん)の写真立ては据えてある。

あの家にいれば、いつ陸の目に触れていたとしても何ら不思議はない。

「一緒に写ってるの、晴?」

写真の中の父は、幼い子供を抱き抱えて笑っている。

「ううん…あれは私の双子の弟。やっぱり私と似てるのかな?良く女の子と間違われてたけど」

記憶の中と同じ、若いままの父と幼いままの弟。

逢えるものなら、逢いたい。

「でも…もう逢えないよ。二人共ね、もう何処にもいないの。五年くらい前に事故に遭って、それで…」

「え…」

陸は一瞬だけ困惑した表情を浮かべたあと、言葉の続きを察してくれたのかごめん、と謝罪した。

「ううん。私も、二人に逢えるなら逢いたいって思ってるから…だからいいの。父さんと弟のこと、陸が知ってくれて嬉しい」

誰かに父と弟の話をするのは、本当に久し振りで――

以前は二人を思い出すと悲しいだけだったけれど、今は寂しくもあるが何だかとても嬉しくなった。

自分はもう、望んでも二度と逢うことは叶わないから。

だから、せめて陸は無事に家族と逢えるようにと、切に願った。





曙光(しょこう)と暗雲の兆候 終.