いとしいこどもたちに祝福を【前編】

不意に低く名を呼ばれて振り向くと、賢夜がじっとこちらを見据えていた。

その、少し咎めるような眼差しにどきりとしたものの、陸は賢夜に向かって頷いて見せた。

「…解ってるよ、大丈夫」

すると間に挟まれた夕夏が、不思議そうに首を傾げる。

「…何の話?」

予想に違わずそう問われたが、賢夜はただ笑うだけで、答えようとしなかった。

(そうか、夕夏にも言ってないのか――)

『…もし君が彼女に何も告げないのなら、俺はもう君に遠慮しないよ』

同室で泊まったあの日の夜、そう賢夜から告げられた。

あの言葉の真意は推し量りかねたが、賢夜が自分の後押しをしようとしてくれていることは解る。

賢夜の厚意を無下にはしまいと、陸は晴海の元へと向かった。



――部屋の前に着いたところで、少し逸る気分を落ち着かせるよう大きく深呼吸する。

「晴、俺……陸だけど」

そして、そう声を掛けながら扉を叩いたのだが――返答はない。

不思議に思って何度も声を掛けたものの、やはり何の反応もなかった。

「いない、のかな」

部屋を間違えただろうか――かと言って中に入って確かめる訳にも行かず、扉の前でおろおろと立ち往生してしまった。