いとしいこどもたちに祝福を【前編】

「じゃあ、天地先生は…?」

「先生は元々国の援助のため黎明から来てくださった医師団の一員だし、優秀なお医者様だからね。流石の領主様も、下手に手出しは出来ないのさ」

援助――確か十数年前に炎夏で戦争があったと聞くが、そのときの話だろうか。

「あの駄目領主でも、暁に妙な真似したら黎明に睨まれるかもって考える頭はあるみたいだね」

夕夏の言葉に、日野もうんうんと頷いた。

「それに、今回の件の協力者は非常に大人数だ。全員捕まえてしまったら、罪人を収容する場所がなくなるよ」

「いっそのこと、みんなで他国に移民しちゃう?…って訳にも行かないか」

「住民はみんな炎夏が好きだからねえ。ただもう少しだけまともな領主が欲しいところだな。春雷の領主様みたいな、なんて高望みはしないからさ」

「春雷の領主様?」

炎夏の国の代表者がどれ程困った人間か、ということは非常に良く解った。

なら今、向かっている国の領主はどんな人なのだろう。

「うちの駄目領主とは正反対。住民から絶大な人気のある領主ってことで有名だよ」

国の広さも住民の多さも炎夏の倍以上なのにね、と夕夏は深い溜め息を落とした。

「賢明で理知的だが、明るく親しみ易い人柄で民からの信頼も厚い。何処かの誰かみたいに、私利私欲のために権力を振り翳すことも一切しない」

まさに絵に描いたような理想の領主様だよ、と日野は言った。

「しかも各国の現領主の中でもお若くてねえ、まだ四十前らしい。てことは私よりも歳下か」

そんなに凄い人が治めているだなんて――春雷の国への期待は自ずと高まった。

「ただ…春雷はどの国に対しても中立だが、広く豊かであるが故に味方に付けたがっている国も多い」