「いや、あの馬鹿は元々晴海を狙ってる訳だし…まあ日野さんが見掛け倒しなのは知ってるけど」

「大人しい顔して賢ちゃんもなかなか言うねぇ」

日野は見たところ、年齢の割に体格はかなり良さそうだが。

「息子さんは見た目通りなのにねえ?」

「うーん、息子は顔付きも身体付きも嫁似で逞しくてねぇ。おじさんは色んな意味で肩身が狭いよ~」

夕夏と日野の掛け合いを他所に、賢夜は晴海の目の前で膝を折った。

いつもは顔を上げなければ見えない賢夜の顔が目線よりも下にあって、何だか不思議な気分だ。

「…待ってろ、すぐ陸を連れて来るから。だから……」

「賢、夜…?」

急に口籠った賢夜に首を傾げると、暫しの沈黙の後に賢夜はまた苦笑いを浮かべた。

「…困ったな。こういうとき俺は気の利いた言葉が全然思い付かなくて」

「え…」

確かに、言葉にしなければ伝わらない想いはあるけれど。

それでも、たとえ何か改まった言葉がなくとも。

「ううん…ありがとう、賢夜」

賢夜の気遣いはちゃんと伝わったよ――そんな気持ちを込めて、晴海は少しぎこちないけれど懸命に笑って見せた。





鬩(せめ)ぐ遺憾と焦燥 終.