「…一目でも姿を見れただけで、十分だ。取り乱して自分の片割れ殺し掛けるような奴には、それでも勿体ないくらいだろ」

風弓はふらりと覚束ない足取りで立ち上がり、ふいとこちらに背を向けた。

「風弓、待っ…」

陸が咄嗟に差し伸べた手を振り払うと、風弓は向こうを向いたまま明るい口調で声を張った。

「姉ちゃんのこと、頼むぜ。俺は…俺の出来る限りのことをやってみるよ」

次の瞬間、風弓の姿はその足元から噴き出した水柱に呑み込まれて消えた。

「っ風弓…!!」





流水の清濁(せいだく)と懐旧 終.