「先輩には、僕が生意気だった頃からお世話になってるからね…形だけでも真似したいんだよ」

天地が生意気だった頃、なんてものは全く想像がつかないのだが。

「だから先輩が亡くなったって聞いたとき…炎夏に越してくるよう仄さんに薦めたんだ。せめて彼の娘さんに、僕が力になれることはないかと思ってさ」

「そう…だったんですか」

母と天地の接点は、父を通してのものだったのか…初めて知った。

「だから使い慣れない能力でも、君を救うことが出来て良かったよ。本当は陸くんの治療にも使えればいいんだけど…」

「暁、やっぱり駄目なの?」

「無理だね…魔法で治癒を促そうとすると、傷に掛かったあの魔法は余計に反発して宿主――陸くんの身体に負担を掛けてしまうんだ」

だからつらいだろうが自然治癒を待つしかない、と天地は言う。

「……あの、先生…陸には私が今回怪我したこと、言わないでください」

「え?」

「陸に心配、掛けたくないんです…それに陸は怪我が治るまで、ずっと耐えなきゃいけないのに…私だけ治して貰ったなんて、申し訳なくて」

「……そうか、解ったよ。もう暫くしないと目を覚まさないだろうから、それまで君も少し休んでおきなさい」

「有難う、先生。それから…賢夜、此処まで私を運んでくれて有難う。重くなかった?」

まだ心配なのか、身体を支えてくれていた賢夜を振り向くと、賢夜は予想外だったように目を瞬いた。

「あ、ああ。全然……晴海、俺が怖くないのか」

「うん…賢夜は、賢夜だもの」

いくら互いに似ていても、賢夜は慶夜とは違う――漸くそう思えるようになった。