普通な学校生活を送るための傾向と対策

「で、さあ、おれたちも緋色って呼んでいいかな?」

 名前を呼ばれた途端。
 呼びたかったんだろうな。
 親しい人間は緋色って呼んでいるしね。
 親しい人間ってそんなにいるわけじゃないけどね。
 亮さん、呼んでるものね、
 うらやましかったんだろうな。

「うん。いいよ」

 緋色はあっさりと承諾していた。
 早すぎ。

「緋色」

 藤井が呼ぶ。

「はい」

 緋色が返事をする。

「緋色」

 佐々田が呼ぶ。

「はい」

 緋色が返事をする。

 彼らの瞳がとろんとして緋色を見つめる。
 付き合い始めたカップルかとでも言いたくなるような、
 身をよじりたくなるような甘い感じは。

 何なのこの雰囲気。
 やってられない。



「さっさと帰るわよ」

 わたしは冷たく言い放つ。
 周りの目も気にしてよね。
 さっきから見られてるんですけど?

「うん。里花ちゃん」

 すぐに反応したのは緋色だった。

「さっさとしないと、置いていくからね」

 わたしは緋色と歩き出す。

「ちょっと、待って、里花」

 佐々田の声。

 突然呼び捨てにされた。
 何なのよこいつら、緋色には許可申請して、わたしには無許可? 
 わたしのことなんだと思っているのかしら? 
 一度問いただしてみたいわね。

 わたしは振り返ることもせず、ずんずんと歩いていく。

 いいけどね。
 呼び捨てにされるのもね、悪くはないから。

 お互い、名前で呼び合うと親密さも増すというもの。
 ますます、声をかけられなくなるでしょう。
 願ったり、叶ったりかしらね。



 これを機会に、もっと仲良くなりましょう。

 他の男子が入ってこれないように。




 けれど、あくまでも、藤と佐々からね。

 こちらからお願いすることは容易い。
 彼らのことだから、一も二もなく、
 わたしの思い通りになるでしょう?

 緋色を使えば、なおさらね。


 それでは、あまりにも簡単すぎて、面白くないわ。

 お願いするのでもなく、強制するのでもなく、
 ましてや命令でもなく。
 あくまでも、行動するのは、
 彼らの意志からだと思わせるように。


 常に課題は必要よね。


 掲げた課題を一つ一つ、
 クリアしていくのが楽しいのよ。




 目標は常に高く。


 次はどんな方法がいいかしら?






「里花。お前、早すぎ」


 藤井の声。
 やっと追いついた彼ら。

「普通よ、普通」

 と言いながら、速足だった足を緩め、いつもの速度に戻した。




 それから、いつものように四人で歩き出した。