答えは始めから決まっているんだけどね。

 即答するのも、呆気なさすぎて面白くないから、
 たーぷり間を取って、彼らの祈るようなその表情を
 これでもか眺めまわしてから、口を開いた。

「ごめんなさい。実は、彼女のお母さんが体調を崩していて。
 今、彼女が家事をしているんですよ。
 だから、土曜日も、ちょっと無理かもしれません」

 わたしは申し訳なさそうに見えるように、
 俯きかげんに少し声を落として。
 ゆっくりとした口調でいった。

 あくまでも断るのが
 申し訳なく不本意なように。

 彼女が誰を指しているのが
 彼らにもわかっただろう。

 はっとしたように緋色を見つめた。
 緋色はわけがわからず、首をかしげている。

 わたし的には緋色に家事って似合わないんだけど、
 緋色のエプロン姿なんか想像しちゃったんだろうな。

 家で食事を作ったり、掃除や洗濯をしたりって。


  
 彼らの体がしゅんと項垂れていくのがわかった。

「こちらのほうこそごめん。そんな事情があったなんて知らなくて」

 知らなくても当然よ。

 嘘だから。
 彼女の母親は元気でぴんぴんしている。


 ほんの悪戯心で、
 母の日に引っかけた断るためのただの口実。

 すまなさそうに謝る彼らに、
 割といい人だったんだと思った。
 これ以上嘘の余韻は引きずりたくないし。



 さっさと退散しよう。


「それでは、失礼します」

 軽く頭を下げると、緋色と二人その場を後にした。


 それにしても、あの二人名前名乗らなかったわよね。
 緊張して忘れていたのかしら?


 こちらはしっかり名札も見たし、
 顔も確認したからばっちり覚えたからね。