「花那、これ食べて。」
「え?自分で食べなよ?」
隆弘はフォークにさしたニンジンを私に差し出してくる。
「意地悪するなよ。」
「え?なに?」
隆弘はニンジンが大嫌い。
それを分かってて私は、ニヤニヤしながら意地悪する。
「これ、土の味するんだよ。」
「土食べたことあるの?」
「そういえば…ない。」
おかしなことを言うから私がふって吹き出したら、目があった隆弘も同時に笑い出した。
「しょうがない、食べてあげよう。」
ひととおり笑って、少しかわいそうになったので、隆弘の手首を掴んでニンジンを食べた。
また、ばっちり目があってしまって何故だか顔を真っ赤にした隆弘を見て、私はまた笑った。
こんなに和やかで、楽しいのはいつぶりだろうか。
ずっとこのままでいたいな。
だけど、やっぱり考えてしまう。
そんな顔、由梨子さんのでもしてるのかな、とか。
この手の温度は由梨子さんも知ってるの、とか。
心の片隅にずっとあるの。

