「帰るか…。」
5分くらい見てみたけど、前の女子が邪魔でなかなか見れなかったし、何も聞こえない。
もちろん、隆弘も気づいてないみたい。
私が来るなんて、思わないよね…。
そう思って、ミーハー女子達の群れをすり抜けて、校門の外へ出ようとした時
「花那ちゃん?」
後ろから声をかけられた。
隆弘じゃない、男のひとの声。
「こうっ…永瀬、先輩。」
振り向くと、やっぱり、永瀬先輩がいた。
私を下の名前で呼ぶ男の人のは、隆弘とこの人以外いないのだ。
でも、私に何の用?
綺麗に笑う顔からは何も読み取れない。
「言い直さなくても、孝輔先輩でいいよ。俺も勝手に花那ちゃんって呼んでるしね。」
私の動揺が分かったのか、孝輔先輩は安心させるように優しく笑う。
「あぁ。はい。」
孝輔先輩のそんな態度に、なんだか拍子抜けしてしまった私はまぬけな声を出す。
「そんなに、警戒しないで?この前の謝罪と、お礼がしたくて。サッカーしてたら、ちょうど花那ちゃんが見えたから抜けてきたんだ。」
「そんな…わざわざよかったのに。なんだかすみません。」
律儀だななんて思って申し訳なくなる。
「なんで、謝るの?あっそうだ!お腹すかない?」
私の気持ちを知ってか知らずか、孝輔先輩は突然明るい声をあげて、突拍子もないことを言い出す。
「はぁ。」
きちんと反応できない私に、孝輔先輩は
「じゃあ決まりね!」
なんて言って、わたしの腕を掴んだと思うと、そのままズンズン歩きだしてしまった。
「え!?ちょっ。え?」
ちょっとパニックになる私。
「大丈夫。とって食ったりしないよ。」
だから、安心してと顔を傾ける先輩はとても絵になっているけど…
「じゃなくて!なんなんですか?」
急に止まって、引っ張られる手に反抗する私。
孝輔先輩は不思議そうに私を見て、それから
「騒がない方が身のためじゃない?周り見て?」
ニヤリと悪そうに笑って、首で周りを指し示す。
「あれ…3組の木澤さんだよね…?」
「なんで永瀬先輩と…。」
周りが私たちに注目していることが分かった私は、押し黙っておとなしく着いていくことにした。
このまま、ここにいても墓穴を掘るだけだ…。
そんな私を見て、孝輔先輩は
「ね?俺の言うこと聞いてればいいんだよ。」
と、愉しそうに笑った。
この人、危険かも…。

