怪我の巧妙

そしてある朝起きた時に考えた。

痛みもほとんどないし、本当はもう治っているのではないか、と。

しかし思い出してもらいたい。

渚の骨折はそんなに軽いものではなかったことを。

そして骨折の経験のある人は分かると思うが、

たとえ1ヶ月でもギプスをはめて固定されると、動かせないために筋肉が落ち、思うように動かせなくなるのである。

骨折の経験が初めての渚は、そんなことは微塵も思っていなかった。  

「そうだよ。きっと治ってるよね。日本の病院ってそういうのに対してやけに過保護だし」

と、外国の病院に行ったこともないのに、渚は大口をたたき、起き上がろうとした。

幸か不幸かバレーの練習で貯えた腹筋はまだ健在だったために、多少の苦労はあったものの、渚は起き上がることが出来た。

とにかく歩くことが最初だと思い、多少の痛みは無視して、足を久々に体の下に降ろした。

というのは足の骨折は足下に釣り下げられた包帯の中にギプス付きの足を入れているために、いつも足の方が身体全体よりも上にあったのだった。