「凛くんと初めて出会ったとき、私のこと”杏”って呼んだでしょ?…咲もなの。咲も…、ううん。今まで咲だけが私のこと”杏”って呼んでたの。」
「あ…、だからあの時様子が変だったのか。」
やっぱり様子がおかしかったこと凛くんも気づいてたんだね。
当たり前だよね。
今でも咲以外の人に呼ばれるのに慣れてない。
「だから凛くんに名前呼ばれると咲のこと思い出しちゃうんだよね。」
「……そうか。」
これ言っちゃたらもう凛くんは”杏”って呼ぶことなくなるかな。
私はそのほうが嬉しい。
やっぱり”杏”は咲だけの呼び方で残しておきたいから。
「…それでも俺はお前のこと”杏”って呼ぶからな。杏が困ってんのわかってるけど、俺とその咲ってやつとは違うから。」
「っ!」
「咲ってやつのこと忘れろとは言わねー。けど、過去にばっかとらわれてんのは違うんじゃねーの?」
私咲のことずっと引きずったままこの先も生きてかなきゃいけないと思ってた。
でも違うんだ。
忘れないのと過去にとらわれたまま動けなくなることは違うんだ。
そんなことも気づけなかったんだ…。
ずっと胸に引っかかっていたことが取れ、スッと軽くなったような気がした。

