「…杏……か。久しぶりに聞いたなぁ。ははは…」
いつも聞いてたこの呼び名が、つい昨日のようによみがえる。
なんだかおかしくなって笑っちゃった。
「杏寿、無理して笑わなくていいよ。今すごく辛いんでしょ。」
なんで…、なんで…?
「なんで藍には全部分かっちゃうの…?」
藍にそう言われ、私はもう涙が抑えきれなかった。
辛かった。
呼び方ひとつで咲との思い出が一気によみがえってしまった。
事故の時のことを思い出して耐えられなかった。
私、強くなったと思ってたのに。
全然、弱いままじゃんか。
藍や蓮に頼らなきゃダメな子でしかないじゃんか。
こんなんじゃ咲に笑われちゃう。
「さき…さきぃぃ…っ。戻ってきてよぉー!私一人じゃ…無理だよぉ……。」
そんな叫びも、もう届かない。

