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『なぁ、秋田。』
『なに?』
『突然なんだけど…。秋田のこと下の名前で呼んでもいい?』
知り合って間もないころ、突然咲にそう言われどきっとした。
それはもちろん、その時には既に咲に気があったからで。
『蓮たちの前で言うの恥ずかしくて、今更だけど。』
『う、うん!いいよ!』
『じゃあ決定!…あ。』
『ん?』
『でも“杏寿”ってちょっと呼びにくいなあ。んー…、杏…でどう?』
“杏”
初めてそう呼ばれた。
そしてそれは私にとって大切な呼び名となった。
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まさか彼にそう言われるとは思ってなかった。
咲は他の人に“杏”って呼ばせなかったし、他の人も知ってて“杏”って呼ぶ人はいなかった。
咲が亡くなってからは特に。
誰も口にしなかった言葉が咲と同じようなセリフで…今。

