――パシッ

ドアを開けて聞こえたのは、

おかえり

の声ではなくて………未来の頬を叩く音。

「あなた今まで何してたの?!
早く朝食を食べなさい!」

帰ってきて真っ先に言われた罵声。
誰もが耳を塞いでしまうぐらいの声に、未来はただ無表情で聞いていた。
そして淡々と返す。

「……分かりました。
ごめんなさい。」

未来はすぐに謝る。
余計なことを言うと、ライに何をするか分からないから。

「でも今は食欲がなくて。
時間ないので着替えたら学校行きます。」

未来の喘息が重いことを知っている游は、無理に食べさせようとはしなかった。
食事は基本揃って食べるのが決まりなため、一緒に食べたくなかった游としてはある意味ラッキーだった。

「……分かったわ。
早く学校へ行きなさい。」

未来は軽く頭を下げて、制服へ着替えに部屋へ行った。

ドアを開ければ香ってくる花の匂い。
ベランダに出ると、ライの姿が見える。
その周りにも様々な花が咲いていた。

時計をちらりと見ると、学校に行くにはまだ早かった。

(まだ早いけど……。
どうして私はこんな家にいなくちゃいけないの。
こんな……“かご”みたいな家……なくなれば……。)

未来の目にだんだん涙が滲んでくるが、ぐっと我慢し、戸締まりをした後制服に着替え鞄を持ち、家を出た。

今日は入学式だが、未来の親は来ない。
未来はバス通学だからバス停に行ったが、歩いていけない距離ではないから、初日は歩くことにした。

未来の女子校のすぐ隣。
来は近くと言ったが、正確には隣だ。