「歌さん」



気になっていた本を借りる手続きをしていると、後ろから肩を叩かれた。


叩かれたほうを反射的に振り返ると、ふにっと頬に指が刺さった。



「何してるの、秀真」


「歌さん、引っかかった。何借りたの?」



ふふっと悪戯っぽく笑って、秀真は手を離す。


代わりに私の手元を覗き込んできた。


170cm近い秀真が140cm後半の私の手元を覗き込もうとすれば、秀真は必然的に屈むことになる。


髪がさらりと落ちて頬をくすぐる。

それと同時に秀真の吐息が鼓膜を揺らした。


不思議とそれが暖かい図書室の中でも、と熱くはっきりと感じられた。



私はカウンターから本を受け取って、鞄にしまう前にその本を秀真に渡した。



「この前薦めた本あったでしょ? ほら、秀真面白かったって言ってた奴」


「あー、あった。あれの続編?」


「うん、そう。入ってたから読もうと思って」


「そっか。面白かったら教えてね、歌さん」



本を返して言う秀真に、「もちろん」と言って鞄に本を仕舞う。


借り物だから折れたりしないように、中身を整理してそっと入れた。



その様子を見届けた秀真は一足先に図書室を出た。


秀真の後を追い、私も廊下へ出た。