「秀真くん、ちょっとだけいいかな?」


じゃあ帰ろう、と、私が立ち上がると、そのタイミングを見計らったかのように廊下から女の子の声が掛かった。


声をかけたその子のすぐ後ろには落ち着きなく制服の裾を引く、大人しそうな女の子がいた。


用事があるのは、後ろの子かな。



そわそわとした態度。


泳ぐ視線。


遠めでも分かる赤らんだ頬。



どんな用事なのかは容易に想像できてしまう。



「歌さん、ちょっとごめんね、行って来る。先帰る?」


「ううん、待ってる。図書室、行ってるね」



私はいつものように、返す。


秀真は分かったと頷いて、ぱたぱたと駆け足で廊下に出ていった。


「場所変えてあげて」という連れの子の声が聞こえ、秀真と女子が視界から消える。


残された連れの子もそこを去るのを見てから、私も教室を後にした。