本日最後の授業終了をチャイムが鳴る。


私は遠くにその音を聞いて、夢うつつから引き戻された。


プリントだけ渡された数学の自習時間だったため、クラスの中は殆どがうつぶせてしまっていた。


チャイムの音が残響となった頃にひとり、またひとりと身体を起こしていき、各々伸びをしたり帰る支度をしたりと好きにすごしている。


窓側の一番後ろの私、赤櫟歌乃(いちい うたの)もそのひとりだった。


うとうととしていた頭はそう簡単には目覚めてはくれなくて、気だるさに全身が襲われる。


私は、とりあえず欠伸によって零れた涙を指先で掬った。


額を机に押し付けて眠っていたので、前髪が少し変な方向に跳ねている気がする。

開けた視界が気になるな、と、手櫛で直そうとして、腕を上げるのも億劫だと気づいてやめた。


そのまま私が寝癖を放置してぼんやりしている間に担任が入ってきて、流れるようにHRを終え、日直の掛け声で一日が終わった。


私が気づいたときには教室に残ったクラスメイトはまばらになってしまっていた。


「歌さん、かーえろ……って歌さんまた寝てた?」


「ん……ほつま。今日はちゃんと課題やってから寝てた、よ?」


のそのそと緩慢な動作で帰り支度をしていた私に、聞き慣れた声が頭上から降ってきた。


顔を上げると、青み掛かった髪が目に入る。

長めの前髪が重力に習って垂れ下がり、私の頬をくすぐった。


その下の表情は呆れ気味で、ため息をひとつ。


この彼、青桐秀真(あおぎり ほつま)は私の前の席の椅子をひいてそれに腰を降ろした。既に鞄も持ってきていて、あとはもう帰るだけ、みたい。


「目は覚めてる? 歌さん」


「覚めてる。だからこうして帰る準備してるんだよ」


「それもそうだけど、歌さん寝起き悪いし」


持ち帰るものを机の中から鞄に移す作業中の私の跳ねた前髪を秀真が軽く直す。

もともと癖のつきやすい髪質だから、完全に直らなかったのだけど、その指先から伝わる体温が少し心地よかった。