「……帰ろ」
外はもう暗い。
日が沈むのが早い冬だ、もう直に夜の帳は落ちる。
もともと秀真と逃げるためだけに戻ってきたのだし、これ以上残る理由もない。
帰ってもどうせ一人だけど、夜道を一人で歩くのは遠慮したかった。
「赤櫟さん……?」
鞄を背負いなおした私は、背後からの声にびくっと身体を震わせた。
部活動なら各部室でやっているだろうから、自分以外がまだ教室付近にいるとは思っていなかった。
必要以上に驚いてしまった、恥ずかしい。
振り返ると、ほんの数十分前に秀真と話をしていた女の子だった。
手には、なんというのか分からないけど、金管楽器を持っている。
吹奏楽部、だったんだ。
確か、吹奏楽部の個人練習は開いている教室でやるものだし、それならいてもおかしくない。
「ご、ごめん。驚かせちゃったよね……。秀真君と帰らなかったの?」
「こちらこそごめんね、ぼーっとしてて。ああ、ええと……忘れ物?」
彼女は眉尻を下げて困ったように笑った。
向こうは私のことを知っているみたいだけど、私は彼女のことをよく知らない。
クラスは違うし、名前も知らない。
今日秀真のところにきていなかったら、多分顔も知らない。
彼女は、その程度の知り合い。
すれ違っても声をかけもしないと思う。
それがわざわざ声をかけてきたのには、何かあるのかも。
しばらく、沈黙が流れる。
自慢じゃないけど、私は人付き合いが苦手だ。
この微妙な空気を酷く居心地悪く感じても、私は何をどうすれば良いのか分からない。
対する彼女も髪に触れたり制服の裾を引っ張ってみたりと落ち着かない。
声をかけてみたものの、用事といえる用事はなかった、ということなのかな。
胸の奥は彼女を見ているとさらにじくじくと痛む。
そういえば、この子に秀真はなんといったのだろう。
断ったのだと思うけど、本当はどうなんだろう。
数分が経ち、下校を促すチャイムが二人を驚かせた。
スピーカーから溢れた音は一定のメロディを奏でると、ぶつっと途切れ再び沈黙を取り戻す。
