そのまま意味もなく教室まで行った。
「忘れ物をした」という嘘に事実が欲しかった、とか思うあたり、私は随分生真面目だと思う。
曲がったことは許さない、そんな両親や兄の影響を多分に受けて育ったのだから、それも当然に思える。
自分の机を覗き込み、手を入れてがさがさと探る。
入っているのは明日使う授業の教科書とノート。
今日は帰って何をするつもりもなかったから、おいていったものだ。
翌日必要な教科に宿題はないし、やっぱり改めて持って帰るものはない。
ふう、と、ひとつ息を吐いて立ち上がった。
さっきの態度は明らかに普通ではなかった。
頭も勘もいい秀真のことだ、不信に思っているだろう。
明日はどんな顔で会えばいい。
いつもはどんな話してたっけ。
秀真の顔、見ていられるのか。
分からない。
分からないといえば、この胸のわだかまりのようなものも。
この正体を突き止めて解決できるのなら、そうしたい。
そうさせて欲しい。
喉の奥で呼吸を妨げるこれを、取り除いて欲しい。
思えば、秀真と話していてこの感覚に襲われたのは初めてのことだ。
秀真が女の子に呼ばれてそちらに行く後姿を見送るときはきりきりと、じくじくと痛むのに、秀真が戻ってくるとそれはあっさり収まっていた。
秀真がそばにいる間は、大丈夫だったのに。
今、胸を締め付けるような、この痛みはどこからくるのだろう。
秀真が「比べている」と言ったときに心臓が跳ね上がって、それでじりじりと痛みは大きくなっていた。
それの、
何が、
原因、
なのだ。
秀真は彼女たちと何を比べているのだろう。
私の知らない、そんな秀真を垣間見てしまった気がする。
あんなに一緒にいたのに、何と比べているのか、まるで予想がつかなくて。
私にはただ、この訳の分からない痛みを耐えることしか出来ない。
苦しい。息が上手に出来ているのかも良く分からない。
あまりの息苦しさに、涙がにじむ。
なにこれ、初めて。
どうすれば。
どうすれば、いいの。
ねえ、秀真……。
手のひらにじんわりと滲む汗を感じながら、私はうなだれた。
胸の奥は変わらず、締め付けられるように痛みを主張している。
