「違う? 好みじゃないってこと?」
「や、そうじゃなくて……うーん、いやそうなのかな。とにかくさ、比べちゃうんだ」
顎に手を添えて眉間に皺を寄せてまだ悩む秀真に、何と比べてるの、とは聞けなかった。
気になったのに、喉は空気が抜けるだけで声にはならなかった。
詰まっているような
圧迫されているような、覚えのある感覚。
じわじわと胸を締め付けるそれが、蔦を伸ばすように全身に広がる。
気持ち悪い、あの感覚だった。
他にも秀真はいくつか例えを述べていたような気もするが、歌乃はそれらを咀嚼して飲み込めるだけの余裕がなかった。
息が、詰まった。
「歌さん?」
「あ……ごめんね、秀真。私忘れ物した。さき、かえってて」
「あ、ちょっと歌さん!?」
返事を待たずに、私は秀真の手を振りほどいて走り出した。
呼び止める声は聞こえた。
でも振り返らなかった。
どうして逃げ出してしまったのか、よく分かっていないまま、私はひたすら学校まで走った。
