お兄ちゃんめ。
そこまで言うか。
「バカ兄貴。歩美さんにちくってやる。」
そしてとりあえず中へ入り、まだ段ボールがあるリビングのソファーへと促した。
「あれ、想像より綺麗。」
「どんなのを想像してたんですか…。私も一応女子なもんで。あ、飲み物淹れますね。って言ってもコーヒーか紅茶しかないですけど。」
「あー、じゃあ俺はコーヒーで。」
そしてエアコンを入れて私はキッチンへ入った。
あの人がお兄ちゃんの友達かぁ。
何かどこかで会った事があるよーな、ないよーな?
「ま、向こうも知らないみたいだし勘違いか。」
バイトで鍛えられたコーヒーを淹れてリビングへ行くと、まだ帽子をしていてボーッと私の付けたテレビを見ていた。
「どうぞ。」
ソファーに座っているその人にコーヒーを差し出すと、笑顔でありがとう、と受け取った。
そしてL字になっているソファーの一人がけの部分に座る。
「それで、ですね。何となくノリで入れてしまいましたが実はまだお兄ちゃんと話し合ってる最中で…。」
「……ふふっ。」
吹き出された声にコーヒーから目を離し、男に目を向けると深く帽子を被ったまま口元を抑えて笑っている。
「あの…?」
何だろう。
遠慮がちに前に座っている男に声をかけると、コーヒーをローテーブルに置き、帽子を取って私にぐいと顔を近付けてきた。
「まだ、わからない?」
わからない?って何…って、
「え…?ハル?」
私が目を見開いたままそう呟くと、目の前にいる男はフワリと笑って元の位置に戻っていった。
「やっと気付いた。俺ってそんなにオーラないかねぇ。コーヒーいただきます。」
テレビで見せる笑顔のまま我が家のソファーに座り、コーヒーを飲んでいるのは間違いなく世の女性たちを騒がせている男性5人アイドルグループの一員、春田愁(はるたしゅう)だ。

