【完】白衣とお菓子といたずらと

「よく俺の荷重が増えたの分かったね」


努めて冷静を装って、話を続けた。


そんな俺の質問に、美沙はクスクスと笑い始めた。


「さっき思いっきり片松葉で歩いていたじゃないですか。これ淹れてくれたとき」


これといって指をさしているのは、ココアが入っているマグカップ。


……あっ。確かに、彼女の前で片松葉で歩いたな。


「ちゃんと見ていたんだ」


「こんなことしてますけど、私は担当セラですからね。それくらい見てますよ。気づかなかったら、セラピスト失格ですよ」


「うん、ちゃんとPTしてるよ。患者になった俺が保障する」


俺の言葉に嬉しそうに美沙は笑っている。


ふと周りを見渡した。目の前に広がるのは、見慣れた部屋。そこにいつもと違う風景、美沙という存在があって、けれどそれが不思議としっくりと馴染んでいる。ここにいる事が当たり前のように、ごく自然と。


「礼央さんに認めてもらえるのが1番嬉しいです。肩並べて仕事できるようになりたいって思ってましたから」


「俺なんて目標にするような人間じゃないよ」


「いえ、ずっと私の目標でしたから」


「じゃあ、俺ももっと頑張らないとな。美沙の目標でいれるように。……まずは、怪我を治さないとな。そうじゃないと、始まらない」


「確かに、そうですね」


2人で目を合わせて笑いあった。


このまま、時が止まってくれればいいのに。そんな、女々しいほどの考えが浮かぶ位に、幸せを感じている。