【完】白衣とお菓子といたずらと

「……痛…ッ」


このままこの雰囲気に浸っていたいと思っていたのに、邪魔をしたのは俺自身。


無理な体勢で、さらに左足を床につけている状態。つい体重をかけすぎてしまったらしい。突然、左足に刺すような痛みが走った。


俺のあげた声に、美沙はビクっと肩を揺らした。


「あー、痛いですよね」


俺から身体を離して、心配そうに覗き込んでくれている。


「一瞬痛んだだけだから大丈夫。最近は前ほど痛まないから」


「それならいいですけど。無理はしないで下さいね」


「あぁ、大丈夫だよ」


せっかくのいい雰囲気は、きれいさっぱり完全に消え去っていた。

……俺の、ばか。自分ことを恨んだ。


「そういえば、もう荷重いいんですね」


「……?」


荷重?俺、何か変わったかな。


「いや、私が休みに入るまでは、まだタッチウェイトだったなと思って」


あー、その事か。


でも、俺の荷重が変わったの、どうして分かったんだろうか。


「外泊前にドクターからオッケーが出たんだよ。痛み見ながら、荷重増やしていいって」


「また、先生は……普通は、患者任せにしないんですけどね」


先生の指示に疑問を覚えたらしい。呆れたように、大きなため息を吐いている。


確かに、普通は患者にどんどん荷重していいよとか、軽々しく言わないよな。


たぶん俺がナースで、自分の所の職員だからだろうけど。


「……れ…礼央さん//が、ナースだからって」


可愛い。

照れながらも、頑張って名前を呼んでくれていることが伝わってくる。


完全に仕事の話になって、仕事しているときの顔になっていたから、少し残念に思っているくらいだったけど、真面目な姿のなかに俺にだけ見せてくれる様子が混じっているほうが、より俺の心を鷲づかみにしてくる。


このくらいの雰囲気のほうが、今の俺には調度いいのかもしれない。


あんまりいい雰囲気になりすぎても、それはそれで困る。


さっきみたいに抱きしめるだけでは済まなくなる。