【完】白衣とお菓子といたずらと

現実をうまく受け止める事が出来ないでいた俺を無視して、彼女は話を続けた。


「本当は就職してすぐの頃から山下さんの事好きだったんです。覚えてないと思いますけど、就職したての新人のころ、山下さんに助けてもらったことがあるんですよ。トランスファーが出来なくて、患者さんを転倒させそうになったとき、助けてくれて、そして私に説教しましたよね。一人で無理するなって、患者さんの安全を一番に考えて人を頼れって。自分を頼っていいからって」


……俺だって、あの日のことははっきりと覚えている。


小川さんは忘れてしまっていると思っていたのに。


可愛い子がリハに入職したって男性職員の間で話題になっていた、だから、俺も小川さんの存在を気にしていたんだ。だから、あの時、たまたま目について助けに入ったんだ。


「……小川さんこそ、あんな昔のこと覚えてたんだ。俺もちゃんと覚えてるよ。成長したんだなって、リハビリ中ずっと感心していたくらいだから」


俺の言葉に彼女は驚いた顔をしていた。本気で俺は覚えていないと思っていたんだろう。


このコロコロ変わる表情をずっと見ていたいなと思った。


「覚えてくれてたんですね。……やばい、すごく嬉しい。あの時から話をしたりするようになって、知り合いも居ない職場ですごくありがたくて、どんどん惹かれていったんです。けど、山下さんが移動になって接点がなくなってしまって。私がちゃんとPTっぽくなって、山下さんと肩並べて仕事ができるようになったら、山下さんにアプローチしようってずっと決めていたんです」


そんなに前から思ってくれていたなんて。気づけなかったことが申し訳ないと思った。


その頃俺の中では今ほどの気持ちはなくて、ただ気になる同僚って存在だった。


「ここ半年くらいちょこちょこと私の存在をアピールしてたんですよ、気づいてました?」


半年って、もしかして……。思い当たる節が1つだけあった。というか、半年前はそれくらいしか、接点がない。


「……飲み会」


「よかった、気づいてたんですね」


彼女はまた嬉しそうに笑った。いたずらが成功した子どものように。


ついこの前のこの表情を見たなと、俺の誕生日に起きた病室での出来事を思い出した。