部屋の中に入ると、彼女はきょろきょろと俺の部屋の中を見渡した。


彼女の視線に、妙に緊張感が高まった。


「座ってて」


目の前にあるソファを指差して促すと、彼女はキョロキョロと興味津津に部屋を見ることをやめて、大人しくソファへと座ってくれた。


それを確認して、俺はキッチンに行き、飲み物の用意をした。


彼女が訪れる前、何を出そうかと悩んでいた。けれど、その心配は全くなかった。


俺は苦手だと知っているはずなのに、なぜか姉ちゃんがココアを買ってきていた。姉ちゃん自身か七瀬の分だと思うけど、今日はこれを貰う事にした。


事前にケトルで沸かしていたお湯を、コポコポとマグカップへと注いだ。


こぼさない様に慎重に、小川さんが待つソファの方へと運び、テーブルに飲み物をそっと置いた。


「どうぞ。コーヒーは苦手だったよね?」


「そうです、覚えてくれてたんですね」


俺の言葉に、カップの中身を確認した彼女は、嬉しそうに笑った。


「いつも甘い飲み物もすごく美味しそうに飲んでいたからね」


「コーヒーは苦いから苦手なんですよ。山下さんに覚えてもらえてて嬉しい」


彼女との間を少しだけ空けて、俺もソファの端へ座った。


こんなにも近くに彼女がいるからか、ドクドクと心臓がうるさく脈打っている。


横目で彼女の様子を盗み見ると、マグカップを両手で持ち、淹れたてのココアに息を吹きかけながら、少しずつ飲んでいる。


俺はこんなにも彼女の存在を意識して、緊張しているというのに。彼女はどう見てもいつも通りで、緊張していないんだろうかと不思議に思った。


何から話せばいいのか。


話したい事があって、こうやって今一緒にいるというのに、なかなか本題に入れないでいた。