【完】白衣とお菓子といたずらと

「足首、熱感がありますね。あとから、クーリングしに病室伺いますね」


「……ぁ……あー、分かった、よろしくね」


なんだ、熱感を確認しただけなのか。


勝手に抱いていた、邪な想いが恥ずかしくなり、反応が少し遅れてしまった。


彼女はちゃんとリハビリというか、俺の怪我についての話をしていたというのに。


俺って、情けないな。


けど、ちょっと待てよ。今の言葉って、また俺の病室に来てくれるってことだよな。


今日はこのリハビリの時間だけで終わりだと思っていたから、嬉しくなった。


今日はもう一度彼女と会える。しかも、病室で2人だけで。


急に浮上してくる心に気づいた。俺って、単純だよなと思うけれど、嬉しい物は仕方ない。


これ以上、彼女への想いを強くしても辛いだけだとは分かっていても、浮き足立ってしまう感情までは抑えきれない。


何かお菓子あったかな?とか、冷蔵庫の中身を思い出しながら、1人でリハビリ室を後にした。







病室に帰り着くまでの間、誰ともすれ違わなくて良かった。


たぶん今は、分かりやすく表情が緩んでいる気がする。


香坂、池田、大山にでも見られたら、確実にからかわれて、問い詰められるのは目に見えているからな。


あいつらに出くわさなくて、本当によかった。


俺は病室に入る直前にその事に気づいて、慌てて表情を硬くした。


「もう遅いけどな」


誰も周りに居ないのをいい事に独り呟いて、今の自分の状況に苦笑した。