「あっ、松葉杖きましたよ」


俺の始まりそうな妄想をストップさせてくれたのは、タイミングよく松葉杖を持って来た香坂と池田。きょろきょろと周りを見回すも、大山はいつの間にか居なくなっていた。


「ありがとうございました。香坂さん、もうあっち行ってていいですよ」


「俺の扱いひどいって。山下さんどうにかしてくださいよ」


「いやー、俺には無理」


2人のやり取りに、池田は笑っているが、俺は心からは笑えそうになかった。


けれど、こいつらにそんな事悟られるわけにはいかないいで、無理やりに笑いながら答えた。


俺は、ちゃんと笑えているんだろうか。


2人のこんなじゃれあうようなやり取りなんて、見たくない。女々しいかもしれないけれど、心がズキっと痛むような。きっと、これが嫉妬なんだろうと他人事のように考えた。










「じゃあ、杖の長さ合わせていきますね。背筋をピンと伸ばして立ってて下さい」


香坂たちを見事追い払った彼女は、平行棒の下を潜り俺の正面へとやってきた。


そして、松葉杖を当てながら、長さの確認を始めた。