『礼央さん、礼央さん』
遠くから美沙に呼ばれている気がした。一度その声に気づくと、意識がどんどんはっきりとしてきた。
「……起きた?」
重い瞼をなんとか持ち上げると、目の前に至近距離で俺の顔を覗き込む美沙がいた。
少しボーっとした感覚があったけれど、徐々に頭がスッキリしてきた。
……完全に寝てしまっていた。
思い出した。美沙がご飯を作っていてくれている間に、寝てしまったんだ。
「ごめん、美沙。どの位寝てた?」
「んー、30分くらい。ごめんね、起こしちゃって」
「いいよ、ありがとう。帰って掃除したからね、眠くなっちゃってさ」
「ずっと入院生活だったんだもん、慣れない事して疲れたんだよ」
少し焦っている俺が可笑しいのか、美沙はクスクスと笑っている。
その様子になんだかムカついてしまった。怒るとかそういうのとは違って、ムカつくという言葉が一番ふさわしいと思う。
俺は腕を伸ばした。ソファに横になっている俺を覗き込む美沙の首に手を回し、グッと引き寄せながら。
そして、魅力的な唇を、俺のそれで塞いだ。触れるだけのキスでは物足りない。それが、正直な今の感情。
けれど、今求めてしまったら歯止めがきかない気がしてならない。だから、もっともっとと欲している自分を、無理やりに押し込んでしまった。
いきなりの俺の行動に、顔を赤くして焦っている可愛い彼女を見れただけで、今は充分としよう。



