――ドスっ


「――痛っ」


鈍い音と共に、晃さんの悲痛な声が響いた。


姉ちゃんが晃さんのお腹を殴った音が、鈍い音の正体だ。昔から姉ちゃんは、手が出るのが早かったからな。昔は俺に対してだけだったのが、結婚してからは旦那である晃さんに相手がシフトして、俺は嬉しい限りだ。しかも、軽く殴るとかではなくって、意外と強い力で殴るから、地味に痛かったりする。


だから、あんまり姉ちゃんをからかうと、こういう目に合うって分かっていたはずなのにな。


「あーあ、晃さん途中で止めなきゃダメですよ。姉ちゃんは俺と違って手が出ますから」


「分かってはいるけど、可笑しくて、可笑しくて」


痛ててと、殴られた箇所を擦りながらもどこか楽しそうな晃さん。


本当、姉ちゃんはいい人見つけたよな。今の晃さんの姿を見ていると、しみじみと感じる。


見ているだけでも分かる、姉ちゃんには晃さんしか居なくて、晃さんには姉ちゃんしか居ないって。世の中、需要と供給のバランスが取れてるんだな。……こんな事姉ちゃんに言ったら、今度は俺が殴られる番になってしまいそうだから、絶対に言わないけど。


笑っている晃さんに、不満げな姉ちゃん、そんな2人が凄く微笑ましく見えて、羨ましいと思った。






俺にも、見つかるかな。





―――、あっ、美沙……





ふと頭に浮かんだのは、美沙の顔。そうか、今の俺には彼女がいる。


彼女には俺が必要で、俺には彼女が必要。そんな関係になれたらいいのにな。


あー、後で会えるけど、今すぐに美沙に会いたくなった。