思考が違う方向に走ろうとしたのを、慌てて引き止めた。


話を戻さなくては。俺の退院の話をしていたんだったな。


「やっと退院できる」


よかったと、ベッドに腰掛けた状態で伸びをしながら言うと、彼女は俺の隣へと腰を下ろした。


「よかったね、おめでとう。私は少し寂しいですけど」


「……寂しいって?」


俺の退院を喜んでくれるとばかり思って話を始めたのに、彼女の答えは意外なものだった。


寂しいって何でだ?俺はやっと美沙と隠さなくていい恋人同士になれると思って、喜んでいたというのに。


少しだけ切なくなった。


俺の表情で、言いたい事が伝わったらしく、彼女は困ったように笑った。


「そんな顔しないでよ。だってさ、今までは私が出勤している日は毎日会えたでしょ?けどさ、礼央さんが退院して、仕事復帰しちゃったら会える時間が少なくなるなって思ったら、寂しくて、不安で……素直に退院を喜べなかったの。ごめんなさい、本当は良い事で喜ぶべきことなのにね」


……いや、いや、これは俺が喜ぶべき流れだよな?


謝る彼女が、ものすごく可愛く感じた。俺と会う頻度が減ってしまうことへ対しての“寂しい”だったなんて、そんなの大歓迎だ。


美沙が俺の事をちゃんと想ってくれているんだと実感した。