「嘘だ! 俺の妻は関係ない!
そうだろう、瑠璃子。
おまえが千鶴子の姉だなんて」


「うるさいわね。
もう黙りなさいよ。」


なんとか口だけは復活させた孝司郎の喚き声をピシャリと遮ったのは、貞淑な妻を演じるのをやめた瑠璃子だった。

その上、追い撃ちとばかりに足に縋りつく孝司郎を蹴り飛ばす。


「『俺の妻』とか気持ち悪い。
言っとくケド私、アンタを愛したコトなんて一瞬たりともナイわよ。」


ぅわぁ…

コレはヒドい。

金の切れ目が訪れた客に引導を渡す、キャバ嬢のセリフじゃねーデスカ。

揺れる瞳で瑠璃子を仰いだ孝司郎は、すぐに目を逸らして項垂れた。

もう彼女は、献身的な妻でも愛想の良い旅館の女将でもなかった。

大切な者を奪われ、その復讐に身を焦がす女だった。

瑠璃子は蔑みきった目で孝司郎を一瞥し、すぐに杏子に視線を向けた。


「さすがですね、先生。
私と千鶴子の関係までお見通しなんて。
いつから疑ってらしたの?」


「ソレは私も知りたいね。
いつからわかってたンだい?ジン。」


鋭く瑠璃子を一瞥した杏子も、すぐに由仁に視線を向けた。