眉を吊り上げる瑠璃子を前に、孝司郎は慌てて口を噤む。
そりゃサスガにマズいもんネー?
コッチとしても、離婚原因になるのはゴメンだしネー?
場に流れる気まずい空気を紛らわすように、杏子が明るい声を上げた。
「とりあえず出ましょうか。
ココには、もう見るモノもないようですし。」
「先生、いかがでした?
その… 例の件は…」
「この牢には、私が思っていたよりも大勢の人が拘留されていたようですね。
多種多様の残留思念が混ざり合っていて、呪いの源を炙り出すには時間がかかりそうです。」
縋るように訊ねた瑠璃子の肩を抱いた杏子が、シレっと口からデマカセを垂れ流しつつ階段に向かって歩き出す。
まじでスゲェな、ほぼ詐欺師の口八丁。
半分呆れながら、もう半分は感心しながら、由仁と日向も二人の後を追った。
上って、歩いて、来た道を辿って…
土間に戻ってみると、一部分だけ様子が変わっていた。
ほんの些細な。
だが、ココに居合わせた誰もが気づく、一部分。
靴が多い…
由仁のスニーカー。
日向のサンダル。
杏子のピンヒール。
孝司郎の革靴。
瑠璃子の草履。
そして…
履く者の心当たりがない、古びたスニーカーが片方だけ……



