女は言葉通り、いつも男を待っていた。
別の客の相手をしている時も、男を思い続けていた。

だが男は、ごく稀にしか訪れなかった。

それもそのはず。
女に会うには、金が要るのだから。

男は大店の跡取りだが、両親は健在。
当然、実権も金も両親が握っている。

その両親の許しがなければ、男は女の元に通えないのだ。

問屋の若旦那と遊女の恋など、認められるはずもない。

身請けなど、夢。
一生添い遂げるなど、夢のまた夢。

身体と心を共有している日向には、女の不安が手に取るようにわかった。

女は夜毎泣いていた。
男を思って泣いていた。

だが男が訪れると、女は笑って迎え入れた。

悲しみを隠して。
寂しさを隠して。

女は決して、男の前で泣き言を言わなかった。

笑って、隠して、待ち続けて。

女はただ、男を信じていた。

女の胸の痛みとリンクして、日向の胸も痛んだ。

ズキズキ

この痛みは、同じ痛み。

信じるキモチと不安なキモチの狭間で揺れ動く、恋する女のコの胸の痛み。

日向はどんどん女に溶け込んでいった。