由仁は、見張り役の樹が呆れ返るくらいの集中力を発揮していた。
脇目も振らず、驚異の速度で論文を書き上げていく。
可愛いバニーちゃんが『頑張って』って言ったから。
可愛いバニーちゃんが『待ってる』って言ったから。
その能力、最初から発揮しとけって?
樹みてーなコト言うなって。
とにかく由仁は愛する日向のため、一言も発さず、シャーペンが走る音だけを教室に響かせていた。
その静寂を破ったのは…
「由仁!
えらいこっちゃ!」
突然、風を纏って空中に現れた空狐だった。
って、ダメじゃん!
樹いるじゃん!
大騒ぎになっちゃいマスYO!
「…
なんだコレは。
ジン、知り合いか?」
…
あれぇ?!
樹サンってば、そんだけ?!
メガネの位置を直しながら空狐を見上げた樹の冷静な問い掛けに、由仁もごく当たり前の如く答える。
「うん。
空狐のジーチャンだよー。」
なんつーか…
リアクション間違ってンぞ、おまえら。