Aくんの太い眉が、不愉快そうにピクリと動く。

逆らう気か。
愛玩動物のクセに。

まぁ、イイ。
どちらが強者か教えてやる。


「しょうがないですね。
力づくで口を噤んでもらいましょうか。
悪く思わないでくださいね。」


言葉のわりに少しも悪びれていない様子で、Aくんは両手を軽く上げた右自然体の構えを取った。


「やめとけばぁ?
君、弱いンでショ。」


「黙れ!」


一喝したAくんが、せせら笑う由仁の袖を素早く掴む。
もちろん釣り手は襟首に伸びてくる。

えー…

こんな狭い場所で、投げる気満々とか…

ヒドくね?

袖を掴まれたまま右足を一歩出し、半回転してAくんの懐に入った由仁が、迫ってくる顔面に肘打ちをカマした。

さらに、鼻血を噴き出して仰け反る彼に足払いの追い討ち。

コンクリート剥き出しの床に受け身も取れずに尻もちをついたAくんは、涼しい顔で立つ由仁を茫然と見上げた。

ナニが起こったのか理解できない。
垂れ流しっぱの鼻血にも気づけない。

まさか… ヤられた?
このヘナチョコに?