由仁は視た。
空狐もどこかで視ていた。
笑顔で手を振るタニグチくんの背後にいた、もう一人のタニグチくんを。
ソレは半透明で輪郭がボヤけていたにも関わらず、明確な意思を持って日向に手を伸ばしていた。
死んで霊魂だけの存在となった死霊とは違い、生霊とは、生きた人間の魂が肉体を離れたモノだ。
恨みや憎しみ、時には慕情など強い感情を抱いた時、人は意図せず肉体を脱ぎ捨てて自由になり、その感情の対象である人や場所に向かうのだという。
基本的に生霊は、死霊よりもチカラが強い。
命ある者がベースとなっている上、感情の塊だから恐れ知らずで無謀なのだ。
だから由仁にも視えた。
そして、視えたモノがタニグチくんの生霊ならば、向かう対象は日向。
感情はおそらく、恋。
日向が感じていた視線の持ち主は、タニグチくんだったのだ。
『暑苦しい視線』ではなく、恋する男の『熱っぽい視線』だったのだ。
タニグチくんは眠っている間に無意識に生霊を飛ばし、恋しい日向に会いに行っていたのだろう。
だが今日、生霊は昼間の学校で姿を現した。
ナゼか。
その理由は、由仁の存在。
恋敵を目の当たりにして、タニグチくんの感情が、つまり生霊が、暴走しはじめたのだ。
だから…