嗤うケダモノ


「知らないワケないでショ。」


「いや、ほんとに。
私、言ってませんから。」


唇を尖らせる百合に、左手を顔の前で振りながら日向が答えた。

そう、日向は由仁にナニも言ってない。

『木崎日向、ペガサス脅迫疑惑説』が流れているコトも。
熱視線で焼き殺されそうなコトも。
一日一画鋲のコトも。

「オカ研入って、どう?」
「変わったコト、ない?」
なんて散々聞かれたが、いつも
「別に」 ←エ●カ様口調
で返している。

それに彼が一緒にいる時には、笑えるくらい誰も睨んでこないのだ。

だから由仁はナニも知らない。
知るはずがない…


「あまりジンを甘く見るなよ、一年女子。」


聞こえた声に日向が視線を上げると、樹は黒縁メガネの位置を直しながら薄く微笑んでいた。


「おそらくアイツは、全部気づいている。」


「へ?」


「だろーね。
アイツ、日向が言い出すのを待ってンだろね。」


目を丸くする日向に、隣の百合までもが言い募った。

いやいや… そんなハズは…

そんなハズは?