嗤うケダモノ


「まぁまぁ、杏子さん。
俺、食われてねェから。
鍋ならすき焼きにしよーよー」


由仁は眉を下げて笑いながら、のんびりと空狐に助け船を出した。

すき焼きて。
そーゆー問題か?


「ジン、他人事みたいに笑ってる場合じゃないンだよ!
今もアンタの中には九尾が」


「おらんのじゃ。」


焦燥が滲む杏子の言葉を、つまみ上げられたままユラヨラ揺れる空狐が遮った。


「由仁の中に残ったのは、九尾の妖力だけじゃ。
長い年月をかけて食われたのは 九尾のほうかも知れん。」


それを聞いた杏子の顔が、ますます険しく歪む。


「はぁ?
一介の人間に、あれだけの気を吸収する容量なんてナイよ!」


「儂もそう思っとった。
じゃが、九尾が消えたのは事実じゃ。」


九尾は消えた。

空狐ほどの神獣がそう言うのなら、本当なのだろう。

無駄にデカいチカラを引き継いでしまったとはいえ、由仁は由仁のまま生きていくことが出来る。

だが…


(そんなコトがあり得るの?)