嗤うケダモノ


だが、ソレ以上強く訴えることは出来なかった。

変なクスリをヤっている、なんて噂になれば、仕事にも支障が出る。

第一、死体どころか血痕の一つも見つからないのだ。

狂言だと思われても仕方ない…

私は
『暑さと仕事疲れで白昼夢を見たのカモ☆』
なんて誤魔化して、翌日宿を後にした。

もちろん、住人の皆さまや警官のオニーチャンに頭を下げて回った。
宿にも、迷惑料として宿泊費以外にお金を包んだ。

私を見送ってくれた宿の主人の あからさまにホっとした顔が忘れられない。

ヨソ者が平和な集落に大騒動を巻き起こして、さぞかし迷惑だったンだろな。

帰りのバスに揺られながら、私はある決意を固めていた。

死んだ女は忽然と姿を消した。
だが死んだ女の息子は、今もこの腕の中にいる。

この子は特別な子だ。
身体の中に大きな爆弾を抱えている。

妙なチカラを授かった私がこの子と出会ったのは、ナニカの縁なのかも知れない。

この子を育てよう。

あの女は助けるコトも見つけてやるコトも出来なかったが、女の代わりにこの子を人として立派に育て上げよう。

この子は、由仁。
私の息子。

不幸な出生やその身に潜む大いなるチカラに振り回されないよう、大切に、大切に、見守って‥‥‥