嗤うケダモノ


宿の主人はその集落の長だった。
なんでも代々長を務めている家柄だとかで、宿の一角が役場と言うか、寄り合いの場所にもなっているそうだ。

横溝正史の小説にありそうな、いかにも田舎の封建的なアレだが、今の私にとっては好都合。

私は宿の主人に事情を話し、協力を仰いだ。

だが今、集落には産み月の女性はおろか、妊婦すらいないと言う。
他の地域からこの集落に来たのであれば、時間的に私と同じバスに乗り合わせていなければおかしいのだと言う。

もちろん駐在所にも連絡してくれた。
チャリンコで駆けつけた若い警官とあの川原に行ってみたが、やはり手懸かりは見つからない。

畑仕事帰りのオッチャンたちもやってきて、辺りを捜し回ってくれたが、発見されたのはタヌキが盗んだ食べかけのスイカだけ。

夜になり、集落の住人全員の所在がわかり、死んだ女を見たのが私だけだというコトも確認されて…

若い警官が怪訝な顔で私に訊ねた。


「現在、ナニカ薬を常用されてませんか?」




違うわ─────!!
シャブ中じゃねェわ────!!

幻覚なんて見てねェわ───!!!

絶対いたって!
確かに女が死んでたンだって!

お風呂に入れてもらって、ミルクも飲んで、満足そうに眠った赤ちゃんがその証拠だろー?!