嗤うケダモノ


空狐は輝くビー玉になり、赤ちゃんの中に入っていった。

赤ちゃんが食い殺されることのないよう、九尾を抱いて眠るのだという。
自在に操れる妖力で九尾のチカラをも圧縮し、赤ちゃんの中に閉じ込めるのだという。

空狐と九尾が解き放たれるのは この子の命の灯火が消える時。

赤ちゃんは人としての生涯を全う出来る。

発光することもなくなり、幸せそうに眠ってしまった赤ちゃんを抱いた私は、再び小川を渡って元の場所に辿り着いた。

元の場所…

ん? あら?
元の場所、デスヨネ?

間違いない…ハズ。
だって、私の荷物はある。

なのに‥‥‥

死体がナイ??!!

それどころか、地面に血痕すら残ってナイ?!

え? え? ナンデ???

生き返った?
歩いて帰っちゃった?

んなバカな。

誰かが血痕を洗い流した。
そして死体を持ち去った。

コレが正解だろ。

身を屈めて女が倒れていた痕跡を捜すが、キレイサッパリ消されている。
血を流したはずの水の跡も、夏の陽気で乾ききっている。

だが、人が一人死んでいたのは事実なのだ。

スーツケースから引っ張り出したバスタオルで赤ちゃんを包んだ私は、大急ぎで今日泊まる予定の宿に走った。