嗤うケダモノ


賽銭箱もない。
狛犬もいない。
もちろん宮司がいるハズもない。

背が伸びた雑草に埋まるように建つ、随分昔に打ち捨てられた様子の神社に駆け込んだ私は、なんの躊躇いもなく小さなお社の木戸を蹴破った。

挨拶もなく土足で踏み込む。

ほんと、スンマセン。
緊急事態なモンで。

まだココにいるのなら、怒ってくれてイイから出てきて。

でもって、力を貸して。
この子を助けて。

か──み──さ──ま───!!

中央にドカリと胡座をかいて膝の上に赤ちゃんを乗せた私は、目を閉じて神社に奉られていたハズの神を呼び続けた。

そのまま、どれくらい経っただろう…


「えらいことになっとるの。」


不意に声が聞こえた。

ココの神様?
ちょっと協力して。

赤ちゃんに憑いてるの、祓いたいンデスケド?


「ふむぅ…
その赤子はアヤツの妖力で長らえておるようじゃ。
アヤツが離れれば、死ぬじゃろうの。」


え? そーなの?
このままにしとくべき?


「アヤツのチカラは人の殻に収まりきれるものではない。
そのままにしておけば、赤子は内側から身も心も食い散らかされ、九尾と成ってしまうじゃろうの。」