嗤うケダモノ


一日に三本しか走っていないバスを降り、その村に一軒しかない宿に鼻唄を歌いながら向かっている最中、私は今まで感じたことのない感覚に襲われて立ち竦んだ。

注意深く、辺りを見回す。

舗装されていない、土埃が舞い上がる一本道。
右側には鬱蒼と生い茂る木々。
左側にはちょっとした崖と、その下に流れる小川…

私はナニカに導かれるように、崖の下を覗き込んだ。

人が倒れている。
女が、倒れている。



死んでンの?
あの女の霊が呼んだの?

いや、違う。

あの感覚はそんなモンじゃなかった。

もっと強大な。
言うなれば、神に近いような…

だが今は、考え込んでいる場合ではない。
助けを呼ばなければ。

私は携帯電話を取り出した。

が!

まさかの圏外─────?!

まぁ、当時は珍しいコトでもなかった。
携帯するコトが前提のわりに、結構デカかった時代だしネ。

しょーがない。
そんなに高くもないし、傾斜も緩い。

私は躊躇うことなく崖を下りた。

手を伸ばし、確認する。

女は死んでいた。

頭から血を流し。
腹を裂かれ。